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2021年05月05日

【東大FFP第17期】なべたん日記・DAY_2 ”後編”

「てんこ盛りだけど、授業に必要な要素満載のDAY2もあと半分。”後編”でございます」の巻

さて後編ですが、その前に前編の復習!(笑)
大事なことは繰り返すことで、自然と身につきます(これも前回の話題にありましたね♪)

という前編は、
(1)「研究紹介」の振り返り
(2)今日の授業の目的と到達目標/全体の中での位置付け
(3)ワーク「統計学はやっぱり嫌い?」;教授にアドバイス
(4)大前提
(5)モチベーションのモデル「期待・価値・環境」
(6)クラスデザイン(授業設計)の意義
(7)ADDIEモデル(インストラクショナルデザインのモデル)
(8)クラスデザインシートの作成演習の第一歩・ワーク「達成目標の設定」
ということで、クラスデザイン(授業設計)のために必要な大前提と枠組みに関する知識のてんこ盛りでしたが、単にこれらの知識が栗田先生から受講生のみなさんに伝えられるだけでなく、受講生が考え、アウトプットする時間が常に用意されていました。それが「アクティブラーニング」ですね。ということで、後編では、DAY1・2で”経験してきた”アクティブラーニングについて学びます。

(9)アクティブラーニングの定義
冒頭はいきなり「アクティブラーニングって何? って言われたら、どう説明しますか?」という問いが示され、Sli.do(匿名性の高い質問ツール)に受講生のみなさんが回答し、全員で共有します(って、これ自体もアクティブラーニング♪)。みなさんの回答は実に多様。それを受けて、栗田先生からも「いろんな人がいろんなところでいろんなことを言っているんですよね」と、そのいろいろな定義から3つ紹介されました(スライド51)。
【ひとりごと】 アクティブラーニングという語自体は、日本では高等教育改革の場で示されていましたが、その後、初中等教育に向けても、「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)平成26年11月20日」が発せられてから、急速に話題となり、その諮問に基づく議論ののちに生まれた「平成29年・30年改訂 学習指導要領」では、「主体的・対話的で深い学び」として示されました。
今回、DAY2で文科省の定義(2012)に着目すると、「教員と学生が」主語になっているのは、 a-意思疎通を図る b-一緒に切磋琢磨する c-相互に刺激を与える d-知的に成長する e-場を創る ことであり、「学生が」主語になっているのは、 f-主体的に問題を発見する g-解を見出していく となっています。過去の私は、b・c・d・の主語は学生だけで、eが教員の仕事だと、自分の活動と照らし合わせて、勝手に解釈していました。結局、試行錯誤していくうちに、b・c・dも、教員である自分自身も、気づけば学習者と共に主語になっていましたが、最初のこの定義と出会ったとき、丁寧に読んで自分の授業を捉え直していれば、試行錯誤はもっと短縮できたかなと、当時の生徒さんたちには申し訳なく思っています。

(10)アクティブラーニングのポイント
「アクティブラーニングを促す方法は、目的ではなく手段」
手段がいつの間にか目的にすり替えられてしまうことは、教育に限らず、よくあることですが(汗)、“前編”、そして以前の「なべたん日記」でもお伝えした「目的と到達目標」は極めて重要であり、それを手段とすり替えてしまうことは、活動そのものの価値を失うことにもなりますので、常に注意しておく必要があります。
栗田先生からは3つの大切な視点(問い)が提供されています。
・授業の目的・目標に対応しているか?
 ・学生の学びに寄与する方法になっているか?
 ・学生の視点で、彼らのモチベーション・学力・関係性への配慮があるか?
この3つの問いは、アクティブラーニングであるかどうかを問わず、授業の設計から実施の全てについて、絶えず授業者は意識していくべき大切なものだと思います。

(11)アクティブラーニングの有効性
双方向の授業と一方向の授業について、授業前と授業後の学生(成績上位・中位・下位)のテストスコアの比較がグラフ(スライド53)で示され、「そこから読み取れるものは何か?」という問いが投げかけられます。例によって、受講生のみなさんはSli.doへアウトプット。みなさんもぜひどうぞ♪
このグラフ自体はテストスコアですが、未修得者の減少やモチベーションの向上など、一方向の授業より、さまざまな面で成果が大きいことが、いろいろな研究結果によって支持されていることは、見逃せませんね。

(12)アクティブラーニングの危うさ
成果・有効性が示される一方で、危惧される状況も生じています。基本的には、(10)で示されたポイントで実施されているかどうかが鍵になりますね。
【ひとりごと】 現場の教員だった頃、いろいろな教室でアクティブラーニングと称される授業を拝見する機会がありました。自省も込めてですが、そういう中で、アクティブラーニングと称されるものの危うさを感じることは数多くありました。
そのとき意外と見落とされがちなのが、”前編”でお伝えした「クラスデザイン(授業設計)」です。アクティブラーニング、「主体的・対話的で深い学び」は、あくまでも手法ですので、それ以前にまず「目的や到達目標」が必要です。さらには、学習者の状況や学びの環境についての「分析」も欠かせません。ある小学校の先生が、そのような危うさは、「アクティブラーニング以前の問題(略して”以前問題”)ではないか」と指摘されたことは、実に的を射たものでした。今であれば、”前編”の「大前提」とADDIEモデルのAnalysis・Designが不十分ではないかと、お互いに言語化できますね。

(13)アクティブラーニングの方法
ここまでのアクティブラーニングの「前提」を踏まえて、具体的な方法の紹介と体験に進みます。
方法には、ミニッツぺーパー、自己評価、ピアレビュー、ブレインストーミング、ジグソー法、ケーススタディ、PBL、TBL、ポスターツアー、など、さまざまな規模や様態のものがあります。ここでは次の3つが丁寧に取り上げられました。
(A)問いかけ;学生に質問を投げかける
(B)Think Pair Share;テーマについて1人で考えて、ペアで共有する
(C)Peer Instruction;短い講義・予習→多肢選択問題ConsepTest実施→学生同士の議論→解説
ご興味のある方は、スライド56〜66をご参照ください。
いずれの方法を扱うにしても、(10)に示したポイントとも重なりますが、次のことが実施上の留意点として伝えられました。
1-手段の目的化を防ぐ。活動させることを目的としない
2-活動の目的および目標を明確にもつ
3-AL導入のメリットを説明する
共同で活動すると学習が促進されることも実証されています(Johnson & Johnson,2009)
4-指示出しは具体的にする
What、How、How longを明確にし、Whyも伝えるとより良い
大事なことは繰り返すの、原則ですね♪
【ひとりごと】 初中等教育の現場でも「グループワークでは、声の大きい生徒、積極的な生徒ばかりが発言し、そうじゃない生徒は聞いているだけになる」という話をよく聞きますが、学習者に応じた授業設計をしていくことが、そういう場合も大切になりますね。具体的な手法の一例として、(A)問いかけ、(B)Think Pair Share などを段階的に(スモールステップで)取り入れることで、安心して発言できる学びの場を創ることは可能になるでしょう。
一方で、このような一人や二人のアクティブラーニングでも、授業者は丁寧に設計・準備し、臨機応変の対応などが必要です。特に授業の開始段階では尚更ですね。授業が進むにつれて、学習者が要領を得ると共に、授業者からの支援を外していくこと(足場外し・これもいずれ出てきます)も大事になりますが、最初はやはり学習者の状況を把握しつつ、丁寧に支援していくこと(適切な足場かけ)が大事になるでしょうね。あ、再び自省を込めてです(汗)

(14)クラスデザインシートの作成
“前編”でもお伝えしましたが、「対象は初学者、自分の研究分野から1トピック、6分間の授業」の設計です。これがDAY6・7の模擬授業の設計にもなります。受講生のみなさんには、前半で設定した「到達目標」を実現するクラスデザインを、専用のシートを用いて作成します。ここまでに相当量の情報が提供されていますが、これらを具体的な形にしていく、ということでもありますね。まず15分間、個人でシートの作成に集中し、その後、ブレイクアウトルームで互いのシート(当然未完成でしょうが)を共有し、6分間ずつ説明し合うことで、アウトプットしながら整理をつけたり、問題点に気づいたり、新たな知見を得たりします。
この作成自体は5月5日締切の課題になりますが、まるごと課題にせずに、少しでも自分で取り組んだ後、一緒に学ぶ仲間と共有・対話できることは、全部がまるまる自宅での課題になることと比べ、さまざまな違いを生みます。ゆえに、この時間が短くてシートが完了しなくても、とても大切な15分間と交流の12分間になります。

(15)DAY2の授業デザインの解説
東大FFPで学ぶ内容が、常に、この授業自体で表現されていますので、まるごと体験しながら学んでいるのですが、そのことを実感する上でも、この「授業デザインの解説」は大切です。前の「なべたん日記」でもお伝えしましたが、毎回の授業の「型」でもありますね。今回は、
・DAY1の課題からDAY2の冒頭で「反転授業」を体験する
・クラスデザインで使う、授業の構成(導入・展開・まとめ)通りにDAY2も設計されている
・毎回、全体像(コースデザイン)を示してから各論や具体例(今回のテーマの位置付け)を示す
・最終成果物(クラスデザインシート)に、さまざまな課題や学びの内容は関連付けられている
・オンライン講座ではよく用いられる「相互評価」を課題として体験する
というポイントが示されました。まだ二回分ですが、授業のさまざまな内容が実に結びついていることが確認できます。

以上、DAY2”後編”もてんこ盛りでした。しかし、てんこ盛りになるということは、ここで伝え、可能な限り体験しておくことが、今後の授業に向けて必要だということですね。先ほど述べた通り、これまでのこともこれからのことに繋がっていきます。

今回は最後に【ひとりごと】を。
私自身の学校現場での活動を振り返ると、DAY2の内容をもっと早くに知っていれば、試行錯誤はもっと短くて済んだだろうに…と率直に思います。大学教員になるには免許制度がなく、教育の技法についても学んでいないので…というのが、この東大FFPの意義のひとつだと理解していますが、初中等教育の教員免許取得のカリキュラム(教職課程)の中で、このようなことを学んでいるのかと言えば、少なくとも私たちの世代にはありませんでした。同世代で一緒に取り組んできた教員仲間の多くは、私も含めて、これらの知見をほぼ現場での試行錯誤、学習者である児童や生徒さんたちとの関わりの中で、経験から学んできました。たぶん、しなくてもよい失敗も多数あったと心から反省していますが、それが現実でした。では、今はどうでしょうか。先にお示しした新しい学習指導要領になり、新しい教育が求められる中で、このような知見を、現場へ出る前に、あるいは、現場にいる間に学べる機会がどこかで提供されることを、切に願うばかりです。知識は実践に活用してなんぼ、ではありますが、知らないことによる悲劇は、どんな世界にもあります。知ることで救われることは本当にたくさんあると、咋期のDAY2が終わったとき、私は心底感じました。

ではまた。

あ、毎回くどいですが(汗)、東大FFPについては、次のリンク先にいろいろ紹介されていますので、ぜひご参照くださいね(大事なことは繰り返す、の図)。
(公式)東大FFPサイト
東大OCW 大学教育開発論(東大FFP2020年度開講分)
インタラクティブ・ティーチング(動画サイト)

大学総合教育研究センター
FFP担当 研究支援員 鍋田修身

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